デジタル教科書が動かない!!「不測の事態」への対処方法を学ぼう。
- スーパーワン長谷川

- 8月28日
- 読了時間: 7分
デジタル教科書のシステムが停止して授業ができない!!
スーパーワンの教育関連事業にいつも現場からのアドバイスを頂き、また私との長年の友人である、公立高校の先生「まっさん」と、久しぶりに話をする機会がありました。
そのときに、先月、デジタル教科書のシステムが停止してしまい、困ってしまったという話を聞きました。
そのデジタル教科書はスーパーワンが手がけているものとは違う教科書会社さんのものだったので、心拍数が上がることはなかったのですが、それでも、現場ではあってはならない事態です。
私が、先生や生徒さんは、そのとき、どうしたのか、聞きました。
「どうしようか?」と生徒に問いかけてみた。
この「まっさん」の高校は、地方の進学校ですが、今の校長先生の方針がすばらしく、校務や教務のDX化や、外部講師を招いての政治や金融の講義へ取り組んでみたり、なにより、「この学校は、進学校だけれども、偏差値の高い大学に入学させるための指導はしない。長い人生を生徒がどのように生きてゆくかを学んでもらう学校です」という日頃から仰っているだけあって、とてもいい学校だと思います。
そんな学校で起こった、システムのトラブルですが、この学校では慌てません。
トラブルの報告をしたまっさんに対し、校長先生は「せっかくの『不測の事態』。生徒のこれからの人生では無数に起こることです。生徒自身に対処方法を聞いてみてはどうですか?」と仰ったそうです。
うーん、さすがです。
それで早速、まっさんは教室に戻って、そのまま、生徒に問いかけたそうです。
さて、どうなることやら。
折角だから、何も道具を使わない学習をしよう!
問いかけに、すぐに生徒が反応しました。
「折角だから、PCも、それこを教科書も使わず、『明日もし、授業で使う道具が何もなくなったら』って想定で、何かやってみません?」
そういえば、この高校の海を隔てた北方で先日大きな地震がありました。そこからの発想なのかもしれませんが、災害によって、学校でのいつもの授業ができなきくなって、いつ再開できるかもわからなくなる事態というのは、比較的想定できる「不測の事態」です。そんな観点で生徒は提案したのかもしれません。
この意見に対して、5分ほど、多くの生徒から意見が合ったそうですが、「何もなくても話すことはできる。だから、みんなで英会話をやってみよう!」という話にまとまりました。
自分で作る授業の学習効果
こういうのを、「自分で作る授業」と言うのでしょう。
それで、その授業の様子をまっさんに聞いたところ、「真剣と笑いのミックスだったよ!」と嬉々として答えていました。なにか、その授業の様子が目に浮かび、私も楽しくなってしまいました。
クラスでも英語が得意な生徒もいれば、そうでない生徒もいます。いっしょに英会話をしてみたときに、そういった生徒の得意不得意や、習熟度の差を気にしてしまうところです。ところが、生徒たちは気にしません。なぜなら、この授業の時間は、道具がなにもない状況の想定だからです。

「英語が上手も下手もない、何も道具がないけど、どうにか皆で授業を進めてゆくには、そんなこと言ってられない。」という間隔だったんじゃないかな、とまっさんは言っていました。
4人ごとに作ったグループでの会話は、笑いが絶えない、とても楽しい授業だったそうです。その授業で、まっさんが担った役割というのは、英語で茶々を入れることだったそうです。大いに盛り上がってくれたそうです。
「先に取り組ませてから教える」(PS-I / Productive Failure)
何か先に取り組むものがあってから、学んだ場合、学習効果は上がるようです。 ETH Zürich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)のTanmay Sinha(タンメイ・シンハ)さんと Manu Kapur(マヌ・カプール)さんによって執筆された論文があります。
問題解決を先行させた指導(PS-I)と指導を先行させた問題解決(I-PS)の効果を比較したメタアナリシスの結果を報告しています。特に「生産的失敗」の概念に焦点を当てています。
新しい概念を学ぶ際に、問題解決を先に行うべきか、指導を先に行うべきかについての議論があります。
問題解決先行(PS-I)と指導先行(I-PS)の比較を行った53の研究から166の比較を分析。
PS-IはI-PSに対して有意な中程度の効果(Hedgeのg 0.36)を示した。
特に、PFの原則に高い忠実度で実施された場合、効果はさらに強く(Hedgeのg 0.37〜0.58)。
学年、介入の時間的範囲、(準)実験的性質がPS-Iの効果に寄与。
生産的失敗(Productive Failure)の概念
生産的失敗は、問題解決を通じて学ぶ準備をするための設計手法の一つである。
PFは、学生が新しい概念を学ぶ前に問題解決を行うことを意図的に設計。
学生が失敗を経験することを通じて、長期的な学習の失敗を最小限に抑えることを目指す。
PFの原則に従った設計が、概念的知識と転移を促進することが示されている。
そんなことが書かれています。
問題解決を先に行わせた場合、そうでない場合より、(Hedgeのg 0.36)を示したとのこと。これは、「平均で 0.36 標準偏差分だけ成績が高かった」という意味になります。
例えばテスト平均点が 60点、標準偏差が 10点の試験があったとすると、g = 0.36 は 約 3.6点の差 に相当します。
結構、効果が高いように思います。
この論文の他にも、学習の前に取り組むことがあったり、また、そこで学習者の意思決定があったりした場合、その後の学習への意欲や集中力が高まり、結果、学習効果が向上するという論文はいくつかありました。
また、「笑い」などのユーモアや、楽しさを感じる学習でも、学習効果が向上するという論文もありました。
指導力の高い先生は、こういった研究で得られたエビデンスを知るまでもなく、現場での生徒との向き合いによって、感覚的にそういった要素を授業に取り込んでいるのだと思います。
デジタル教科書やデジタル教材を使った、デジタル学習やブレンド学習のススメ
昨今は、学校や先生と私たちのような開発者が直接お会いすることは、公式にはかなり難しくなりました。コロナ禍や業者の過剰接待事件、セキュリテュなどが関係しているのでしょう。
スーパーワンは、次世代の学習システムを実現する、「デジタル学習」と、生徒や先生の人間力などに由来する学習とのハイブリッドである「ブレンド学習」の構築を目指しています。
この実現には、現場の先生方のご意見が欠かせないのですが、そういった事情で、いまはまっさんとも、共通の趣味であるエレキ・ギターの話ぐらいしかできず、今回のようにあまり踏み込んで根掘り葉掘り聞くのは憚られるところです(私が気にしてしまいます)。
学生さんが世に出るために学習しなければならないことは、30年前の数倍に増えていると感じます。しかし、様々な世情の影響で、学校や先生は学校以外の者や企業との接触する機会がどんどん狭まっているため、学校や先生自身が学習し、進歩することを、閉じられた中で行わなければなりません。
中教審では、企業人などの社会人が学校の授業に参画できる制度も検討されていて、期待を寄せたいところではありますが、実現したとても、当然、数や質の面で、限界はあります。
教育というのは、留まることが許されません。万一、留まってしまったとき、次の時代を担う若者が、必要な学習の機会を与えられないまま、世に出ることなってしまいます。以下なら状況下においても、このようなことがあってはいけないのですが、留まらせない努力は、全て学校に任せられてしまっていることは、大きな課題だと思います。
学校や先生の指導力の維持にも、限界が見えてきている中で、自立的に学習を組み立て、進めてゆくことができるスキルと、仕組みが必要です。
スーパーワンの目指す、次世代の学習システムは、学習者が自身の学習課題を見つけて、学習方法を組み立て、自律的に日々の学習を進め、その状況を合理的に分析し、そこからまた学習者が自身の学習課題を見つけるというループにより、構築されるものであり、それに学校や先生が人間性の部分で関与したり、この記事の例のような、道具を使わない想定でに学習をミックスルするなどの、ブレンド学習システムがGOALです。
こういった取り組みに、もし興味をお持ちの、先生や塾等の講師、研究者の方がおられましたら、是非、スーパーワンまでご連絡ください。



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